仁義礼知信について
人間関係を大切にする「五常」と「五倫」の哲学。
ロドリゲスを感動させた日本人の礼儀正しさ
ジョアン・ロドリゲスが日本人の日常生活に接してもっとも感動したことの一つが、日本人の礼儀正しさ、礼儀作法の風俗であった。そうした風俗、習慣のないヨーロッパ人にとって、日本人の礼儀正しさは彼らにコンプレックスを抱かせたとともに、日本の文化に尊敬を抱かせる契機になった。その感動を受けたのはロドリゲスだけではない。日本を訪れた西洋人の多くが同じ印象を受けたことは、最初にヨーロッパに伝えられた礼儀正しい日本時像が、その後ずっとのちまで明治時代に至るまで継続して生きていたことからも明らかである。
日本人の礼儀正しさはどこからきたのか?
日本人の礼儀正しさ、作法や風俗はどこからきたのか。ロドリゲスは『日本教会史』第1巻第15章「日本人の風俗と礼儀一般について」の中で次のように述べている。
日本人の礼儀・風俗は、その基礎は、中国古来のそれによっているが、日本人は日本の風土に応じ、独自の流儀を作り上げている。すなわち、共同生活をする社交性をもった人間は、儒教でいう「五常」、つまり、人間である以上常に守るべき5つの道(徳)を守っている。仁・義・礼・知・信がそれである。
仁義礼知信とは
「仁」とは、他人に対する思いやりとやさしさ、慈悲、従順、仁愛、愛情である。また惻隠(そくいん)の心ともいう。「義」とは、正義、平等、公正、清廉、つまり不善を恥じにくむ羞悪の心である。「礼」とは、尊敬、礼儀、礼儀正しさ、権威に服従する辞譲の心である。「知」は、善悪を弁別する是非の心である。「信」は、人間の交際と交渉における信義と誠実である。
五常とは
「五常」は、同時に人間の相互関係から五種類の道徳「五倫」に分け、その徳を守ることが求められる。
- 主、君と重心の人間関係、義
- 父と子の人間関係、親
- 夫と妻の人間関係、別
- 兄と弟、目上と目下、老人と若者の人間関係、序
- 同輩、仲間どうし、朋友の人間関係、信
この五倫の上に立って、修身、斉家、治国、平天下という国家哲学が成立する。このような人間関係を大切にする哲学は、ヨーロッパのような絶対神、オールマイティの神をもたないアジア、とくに中国、日本の社会においてもっとも重要な地位を占めていたのである。
もてなしの心を凝縮した茶の湯
こうした相手を尊敬する、礼儀正しい「もてなし」の心の凝縮した茶の湯、それを完成したのが、堺が生んだ千利休の茶の湯であり、一期一会、和敬清寂の哲学である。ロドリゲスが日本の茶の文化に中国の模倣でないといったように、一期一会も和敬清寂も中国の古典にない言葉で、まさに16世紀日本、堺で造られた漢語である。
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